「あさになったので まどをあけますよ」
子どもたちが、部屋の窓をあけます。 新しい一日を迎えるために、毎朝、窓辺に立つのです。
「やまは やっぱり そこにいて きは やっぱり ここにいる」
そこから見えるのは、いつもと変わらない風景。
もちろん、窓を開けてそこにあるのは山ばかりではなく。 にぎやかな街が見える窓だって、のんびりと流れる川が見える窓だって。 たくさんのお花が目に飛び込んでくる窓や、風が気持ちのいい窓だってあります。 どこかの知らない国に住む、あの子の窓辺はどんな景色だろう。
そこには、いつもと変わらない景色がある。 だから、ここが好きなのです。
晴れている街もあれば、雨がふっている場所もあるでしょう。 君のところはどう……?
何気ない日々の繰り返し、毎日変わらずにある景色の中にいる自分。そこにこそ、その中にこそ、生きることの喜びがある。そんな強い思いが込められた、荒井良二さんのこの絵本に登場する景色には、すべてに明るい朝の陽ざしがふりそそぎ、とても清々しく、読む人の心をまっさらにしてくれます。
「ああ、今日もまた新しい一日がはじまる。」
そう思えることの幸せ。 私たちは、絵本を開くたびに味わうことができるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
なにげない日々の繰り返しの中に幸せがある 新しい1日をむかえるために窓をあける子どもたち。なにげない日々の繰り返し、その中にこそある生きることの喜びを描いた絵本。
<編集者より> 2011年は、わたしたち1人1人にとって忘れられない年になりました。日々を暮らしていくということについて、多くの方があらためてさまざまな思いをめぐらせたのではないでしょうか。この夏、荒井良二さんは、被災地の方々と一緒に取り組むワークショップのために、東北地方沿岸部の町を訪ねる旅を繰り返しました。そして、思いをこめて1冊の絵本を描き上げました。美しい絵本です。この絵本の美しさにこめられたポジティブな力がどうぞ読者のみなさんに届きますように。
震災の後、自分に何ができるのかを考えた方は多かったと思います。ある思いは募金へ、ある思いへは被災地に絵本を送るという行動へと向かいました。
10か月経った今、私もそのことを考え続けています。最近、仙台空港に行くことがありました。
仙台空港は震災後の早い時期に復興しましたが、空港の周辺は瓦礫は片付けられたものの枯れた草が生い茂る空き地が広がっていました。
そこには、震災前は当然家や店があったのだろうと思います。一階が津波でやられて二階だけが残っている家。少し行くと住宅街の中に仮設住宅があり、同じ市内の中でも被害が違うということを物語っているような光景。すべてを見たわけてはないのですが、胸がつまる思いでした。
この絵本は、震災後に荒井良二さんがやはり自分にできることを探されての作品ということです。
この作品の前に、長田弘さんと荒井良二さんの『空の絵本』を読みました。そこには、震災後も変わらずにある空の移り変わりがありました。
どんな時にも明けない朝はないと言います。それでも今回の震災は原発事故もあり、そのために復興が遅れているという事情もあります。
そして、東北出身の荒井さんの絵本をもう一度読み返してみると、果たして私は震災後に東北の街や人々の気持ちに思いを馳せたものの、本当にわかっていたとは言えなかったということがわかりました。
朝の光は私たちに希望と勇気を与えてくれます。『空の絵本』と同じくこの絵本の絵もとてもきれいで、心にすっと入ってきます。
私にできることの一つは、こうしてこのような思いを持った一冊を人に紹介していくことだと思いました。
(はなびやさん 40代・ママ 男の子9歳)
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