かこさとしさんの没後に発見された作品、構想から68年もの長期間に自身で加筆、改定されつつ、公表されなかったこの作品は、自分の知っている作品とは異質でありながらも、事実を見つめる眼としての根幹を見たような気がしました。
実りの秋という、かこさんの大好きな季節でありながら、つらい思い出も同時に思い起こさせる季節は、戦争の残忍な事実も秘めていたのです。
敵機に撃ち落とされた戦機から脱出した兵隊の、パラシュートが開かずに地上に落下していく様子を見てしまった衝撃が、その当時の記憶をも繋げて忘れることのできない重さになっているのでしょう。
食糧難のこと、自分が盲腸手術で苦しんだこと、担当医に召集令状が来たこと、その医師が戦士したこと等が次々と蘇ってくるのですね。
悲しみ苦しみの、戦争の記憶の連鎖が、心の傷として、癒えることはないのでしょう。
この作品は、コロナ禍という時代背景で世に出されました。
その作品を、ウクライナへのロシア軍の軍事侵攻という、重苦しい世情の中で手にしていることの意味を感じています。