就学前ほど多くはありませんが、今でも小学3年生の息子と一緒に本を読むことがあります。息子は成長するにしたがって、絵本から幼年童話へと移り、最近ではかなり長い物語を好むようになってきました。本のページ数が増えるにしたがって、逆に挿絵は小さくなり数が減っていくものですが、この「不思議の国のアリス」は、この法則には当てはまりません。ページをめくるたびに、アリスを初め三月ウサギ、チェシャーネコなどのユニークなキャラクターが飛び出してきます。しかも、全てがカラーで細部にわたって丁寧に描かれています。私にとっては随分と昔に読んだきりで、記憶があいまいになっていましたが、「こんなキャラクターもいたなあ」と懐かしく思い出されました。もちろん初対面の息子は次々と現れる彼らを興味津々で覗き込みます。いくつになってもお話と一緒に絵を楽しむことができるのは嬉しいもの、そんな楽しみを存分に味わえる贅沢な1冊になっています。
そして、アリス作品の特徴のひとつにあげられるのがナンセンスな言葉遊びです。けれど、150年も昔に書かれた外国の話ですから、書かれた国や時代背景を知らない者にとっては、そのままでは面白さが伝わらないこともあるだろうと思います。ですから、物語の魅力を満喫するために訳文の持つ力は大きいのではないでしょうか。特に私のような原文を読める英語力がない読者にとっては、訳された文章だけが頼りです。この本の紹介文に「読みやすい新訳」とあったとおり、今の日本人の感覚に合っていて、翻訳ものであることを意識せずに楽しめました。
中でも訳の面白さで気に入ったのが「ウミガメフーミの身の上話」の章です。フーミという名前のウミガメだろうと思わせておいて、実は「ウミガメ風味」だという、すでにタイトルからしてひねりがきいています。そして年寄りのウミガメ先生は、教壇に立つのがお仕事だから「タツノオトシゴ」と呼ばれていて、算数では足し算、引き算から始まって爺算、婆算までも習います。授業時間が毎日引かれていくのは、先生の寒すぎるジョークにみんなが引いてしまうからなどといった具合です。息子と二人で大笑いしながら読みました。訳者の方は英語や英語圏の文化に詳しいのはもちろんなのでしょうが、それを全く異なる国の言葉にぴったりと当てはめてしまうセンスの良さも抜群だと思います。
息子からはすでに続編「鏡の国のアリス」をリクエストされていますので、こちらも大いに期待して読みたいと思っています。