ルドウィッヒ・ベーメルマンスの1953年の作品で、邦訳は2007年が初版。
1951年にコールデコット賞を受賞した「マドレーヌといぬ」を始めとしたマドレーヌシリーズが有名です。
場所は、深い深い緑の森の外れ。
そこの崖に生まれたもみの木は、崖から吹き付ける風と戦い、岩にしっかりとしがみついて、真っ直ぐのびることなく、崖の淵を這うように大きくなりました。
周りのもみの木は、真っ直ぐに伸びたので、切り倒されて板になっていったのですが、そのもみの木は、その行為が何代にもわたって繰り返されていくのを見守るだけだったのです。
もみの木は、自分は役に立たないと思っていたところ、その下にシカが住み着き仲良くなります。
もみの木の周りには、良質なパセリがあって、そのシカはパセリが大好きで、その効用を知って仲間のシカにもパセリを勧めます。
そのため、パセリと呼ばれるのですが、シカがパセリが好きとは初めて知りしたし、食卓の飾りくらいにしか思っていなかったので、認識を新たにしました。
そんな暮らしぶりが淡々と描かれている前半から、後半は、狩人の登場とかがあって大きく展開するのですが、ストーリーとして十分に楽しめるものです。
パセリともみの木の心暖まる交流がメインなのですが、実に話の骨格がしっかりとした作品だと思いました。
派手さはないのですが、心にしっかりと残るそんな印象です。
何度も見直したのは、パセリともみの木が寄り添うシーン。
もみの木の枝が、年老いて灰色になったので、パセリのツノと見分けがつかなくなっているのですが、しんみりとした気持ちになってしまいました。
各ページの左側には、花の絵が添えられていて、その名前が最終ページに掲載されていますが、その数23。
さり気無く挿入されているのですが、絵本の完成度に寄与していると思います。
良質な絵本というのは、まさにこういった作品を言うのでしょう。
クリスマス特集の棚にあったのを、たまたま見つけて読んだのですが、隠れた名作との邂逅に感謝です。