![出版社からの紹介](/images/shoukai_shuppansha.gif)
詩人の仕事は、生きる歓びをうたい 時代を先読みすることにあります。 宮沢賢治も金子光晴も茨木のり子も石垣りんも そしてこの絵本の作者で詩人のロバート・フロスト (1874-1963・アメリカ)もそうでした。 19世紀に生まれたフロストは、文明がついには 人間を破滅の淵に追いやることを予見し この手紙形式の物語を書きました。 登場するのは、大地に立つ農夫と 文明の使者・自動車に乗る商人です。 フロストは農夫に「考える」という役割を与えます。 「考える」ことだけが文明を抑制し 人間を破滅に追いやらずにすむ 唯一の「手」であると考えたからです。 絵を描いたのはテッド・ランド。 フロストの物語を深く読んで絵画化し 原作にはない小鳥や馬、犬、猫、家族を 描くことで、物語をいっそう味わい深い ものにしました。
山のなかの農家をめざして一台の黒塗りの乗用車が走ってきます。町の商人です。クリスマスツリーになる幼木を買いに来たのだと男は言います。
農夫が育てているのはバルサムモミの木で、断じてクリスマスツリーなんかにする木ではありません。 農夫は、友だちに手紙を書き、 自慢のバルサムモミの木を一本丸ごと絵に描いて送ってやりました。
「メリークリスマス モミの木を一本、同封します。」
![ベストレビュー](/images/shoukai_bestreview.gif)
町の商人が田舎の山に、クリスマスツリーにするためのモミの木を買いに来ます。物語のはじめから終わりまで、商人はりっぱに育ったモミの木を商品としか見ていないが、山を所有する主人は、モミの木を息子のように思い、モミの木が山に存在することの意味をかみしめ、語りかけています。モミの木であって、クリスマスツリーではない。山に木があるからこそ、他の生き物たちも生きている・・・と、突然木を買いにきた商人とのやりとりで、木についてひとつひとつ考えては、ひとつひとつに自分で答えを出し、最後には、木を売る道ではなく、香りのよい、美しいモミの木を誰かに見てもらいたくなったと、さっそく友だちにモミの木を絵に描いて送る・・・ 子ども、犬、馬、山の景色・・・絵からも、日常の風景が、とても美しく、静かで、しっかり山で生活している感じが読み取れ、山の主人が、普段からどれほど木や山の生活を大切にし、愛しているかが、味わい深く伝わります。ちょっと考えれば、木を切り倒して、丸裸にされた山が、どんなに無惨かわかるのに、どういう立場で考えるかで、守られるものも、得られるものも、全く変わってしまう。もし私が、この山の主人の友人で、モミに木の絵の手紙をもらったとしたら、ありったけの耳をすまして、鳥の声を聴き、自分も自然の一部として生かされていることに、感謝できる人間でありたいと思った一冊でした。 (はまぼうふうさん 40代・ママ 女の子17歳)
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