海をみおろす丘の上にある、小さな家に住んでいるのはルピナスさん。ルピナスさんは小さなおばあさんですが、昔からおばあさんだったわけではありません。
子どもの頃のルピナスさんのお気に入りの場所は、おじいさんの仕事場。夜になると、ルピナスさんはおじいさんから遠い国々のお話をしてもらい、終わるとルピナスさんは必ず言いました。
「大きくなったら、わたしもとおいくににいく。 そして、おばあさんになったら、海のそばの町にすむことにする」
大人になって働きはじめたルピナスさんは、世界中を旅してまわり、そのあと海辺の小さな家に住み、おじいさんとの約束を果たします。でも、おじいさんとの約束には3つ目があったのです。
「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたい」
いまでも、それほど悪くないのに。いったい何をすればいいのでしょう。痛めた背中の調子が悪くなり、寝て過ごすことも多くなっていたルピナスさんでしたが、春になるとお散歩ができるようになるまで回復します。そして丘の上に立った時にルピナスさんが見たものは……?
青、紫、ピンクの花を咲かせる華やかな「ルピナス」のイメージと、一人の女性の生き方を重ねて描きながら、「生きる」ということの意味を美しくしなやかに語りかけてくれるこの絵本。その目的を果たすためには何をしたらいいのか、そう考えていくだけで道はおのずと開け、前へと進む力がわいてくるのです。
道がわからなくなり立ち止まってしまう瞬間というのは、誰にでも訪れます。そんな時にふと思い出す絵本があるというのは幸せなことです。私の場合は、どうやら『ルピナスさん』のようです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
ルピナスさんは、おじいさんと約束したとおり、世界中を旅行して、海辺の小さな家に住み、3つめの約束「世の中を美しくする」ためにすてきな魔法を思いつきました。
友人に「一番好きな絵本は?」と問われて、考えに考え抜いてやはりこの絵本と思ったのがこの『ルピナスさん』です。
バーバラ・クーニーの繊細で美しい絵もさることながら、おじいさんに言われた「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらたい」という言葉を大切に、生涯を通してその「なにか」を考え続ける姿にとても共感できるからです。
子どもの頃から、志を持って生きる強くて優しい女性に憧れる傾向のあった私。
ルピナスさんは、功成り遂げたとか目覚ましい功績を残したというわけではありませんが、
市井の片隅で、人知れず「世の中を、もっとうつくしくすめために」と行動している姿に、私もこんな生き方をしてみたいと思うのです。
『ルピナスさん』を出産祝いに贈られているというお話も聞いたことがあります。
ルピナスさんが、花のたねを植え続けたように、この絵本を読むことでルピナスさんの考えに共鳴し、自分にできる何かを探し続ける方も多いのではないかと思うのです。
良質な絵本は、人の心を耕し心に言葉の種をまき、いつか美しい花を咲かせようとする気がします。
そんな絵本の見本のような作品だと思います。 (はなびやさん 40代・ママ 男の子9歳)
|