誰もが知っている『走れメロス』ですが、印象にある部分は親友との信頼関係と必死に走る姿。この絵本は、走るメロスをクローズアップして、原作から抜粋したものとか。
原作からの抜粋であるからか、良いところと物足りなさを併せ持っているように思います。
良いところは、原作を読みたくなるようなアブストラクトになっているところ。書き換えることでメロスの人間像とその行動をはっきりさせる方法もあると思いますが、原作からその文章を変えることなく抽出することで、この物語の背景にある様々な社会性、メロスの弱さと人間性、いろいろなことが見え隠れしているのです。
物足りなさは、見え隠れしている様々なことが、この絵本ではわからないこと。これだけでは、よくわからない。メロスがきわめて単純な男に見えてしまいますし、どうして走ることになったのか、親友を人質にすることになったのか、太宰治がテーマとした題材が表に出てこないのです。
この絵本は、声に出して読む絵本として作られています。太宰治の原作から抽出したために、古い言い回し。こどもにとってなじみのない言葉が出てきます。それを説明できることが前提かも知れません。
メロスにスポットをあてた絵、王さまの顔が少し浮いているかもしれません。
残念ながら、少し中途半端に思えてしまいました。