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なんでやねん
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投稿日:2015/06/12 |
子どもたちだって大変です。
夏やすみでも冬やすみでも春やすみでも、大嫌いな宿題があります。
小学二年生のつよしだって、そう。冬やすみの宿題は、「詩」を書くこと。担任の先生が夏休みにつづいて、文集を作ろうとがんばっています。
でも、つよしには「詩」がどんなものかよくわかりません。せっかくできた「詩」もお母さんの大反対にあってボツになります。「かあちゃんの ケツは でかい」と書いたからかもしれません。
つよしはおかあさんと一緒に町の商店街にでかけます。そこでみかけた光景を「詩」にしてみます。でも、やっぱりおかあさんの猛反対にあって、ボツ。
もう、なんでやねん。
大阪弁で書かれたユニークな童話。ことばがいきいきととび跳ねているのは、大阪弁の力が大変効いています。
さまざまな風景をいろいろ観察することで、主人公のつよし少年は、「とっておきの詩」にちかづいていきます。
文中になにげなく挿入されている詩ですが、子どもたちはこんなふうにしてものごとを言葉にしていくのだとすいこまれます。そして、子どもたちの素直な表現が、おとなになる知恵を背負い込んで、かざったり嘘をまじえたりゆがんでいくようで、すこし残念です。
できれば、かぎのかかるひきだしにしまった子ども時代の「とっておきの詩」にみなさんが出あえたら、とっても素敵なんですが。
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絵本だからこんなにしみじみしてしまうのかも
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投稿日:2015/06/09 |
なんと美しい絵本でしょう。
まず、一面水色の表紙に魅きつけられます。イーヴォ・ロザーティさん文章もいい(翻訳は田中圭子さん)。ガブリエル・パチェコさんの絵も素晴らしい。暗い色調が水色を引き立たせます。
そして、何よりも「ひらいたままのじゃぐちからうまれた」「水おとこ」というキャラクターが秀逸です。
さすがに第15回絵本賞の読者賞を受賞しただけのことはある読み応え十分の絵本です。
「水おとこ」は「人とはちがっていることで」たくさんの誤解をうけます。だから、街の人びとから追いかけまわされたり、どなりつけられたりします。「水おとこ」はちっとも悪くはないのに。
そんな「水おとこ」ですが、時が少しずつ流れて人びとは少しずつ心を開くようになってきます。素直に「水おとこ」を受け入れたのが子どもたちだというのが素敵です。
でも、「水おとこ」がほんとうにいるところは、ここではありません。川や海や雨の中。だから、「水おとこ」は前に進みます。「水おとこ」はどうなるのでしょう。
少しだけヒントを書けば、最後のページは、一面の水色。
なんとなく村上春樹さんの翻訳で読みたい気分になる絵本です。
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つづきのつづき
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投稿日:2015/06/08 |
本を閉じて、さてこの物語のつづきはどうなるのだろうと思うことがよくある。
例えば、夏目漱石の『坊つちゃん』。四国松山での事件のあと、東京に戻った彼は街鉄の技手になったとあるが、果たしてその後結婚したのだろうか。奥さんはどんな女性で、子供はいたのかいなかったのか。それは息子なのか娘なのか。そういったことである。
そういったつづきを読みたいと思う人はいるもので、『坊つちゃん』でいえば作家の小林信彦さんが作中の登場人物うらなり君のその後を描いた『うらなり』という物語を書いている。
柏葉幸子の『つづきの図書館』はその逆。
絵本の登場人物たちが自分の物語を読んでくれた人物のつづきを訪ね歩くという、ファンタジー物語である。
田舎の図書館に司書として勤めはじめた桃さんの前に最初に絵本から飛び出してきたのは、はだかの王様。王様は桃さんにこう言うのである。「本をさがしてもらいたいのではない。青田早苗ちゃんのつづきが知りたいんじゃ」って。
早苗ちゃんは病気で入院をしていて、そのあいだずっと「はだかの王様」の絵本を読んでいたのだという。こうして、桃さんとはだかの王様の、早苗ちゃん探しが始めるのである。
『つづきの図書館』は、そんなはだかの王様だけでなく、「おおかみと七ひきの子やぎ」の狼や「うりこひめ」のあまのじゃくなどが読者のつづきを探す物語だが、同時に桃のこれまでもを探すことになっていく。
はだかの王様は図書館の本から抜け出してきたのだが、そんな王様がぽつんとこんなことをいう。「一人の人間に一生愛されて、その人間のそばにおいてもらえる本もあるじゃろ。そんな本は幸せじゃ」。
この言葉のなかの「本」を「人間」に変えたとき、この物語のまんなかにたどりつく。
きっとこんな素敵な物語にもつづきがあって、それは閉じられたページのなかでつづいているにちがいない。もちろん、それは読者だけに与えられた密やかな楽しみでもある。
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水ナスもいいですよ
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投稿日:2015/06/07 |
私が生まれた大阪・岸和田は泉州とも呼ばれているのですが、そこにはおいしい水ナスという野菜があります。
私が子どもだったうんと昔、水ナスなんていつもあった、どこにでもある(と思っていた)野菜だったのですが、今や全国的な名産品のひとつになっています。
東京で買おうと思えば、百貨店に行かないといけない。
おいおい、水ナスがそんなにえらくなってどうするの? みたいな気持ちですが、おいしいのだから仕方がない。
ナスは野菜の中でも料理のバリエーションの多い方です。
この絵本の裏表紙の中に、「茄子料理づくし」が載っています。
茄子のぬか漬け、米茄子の田楽、焼ナス、麻婆茄子、など、たくさん、たくさん。
それにナスはその色がいい。
独特の紫色。
あんな顔色をした人がいたら驚くでしょうが、この絵本の主人公なすの与太郎じいさんは、ナスですから紫色の顔をして、頭にちょうんまげのようにヘタをのせています。
様になっているから不思議です。
ある日、与太郎じいさんは孫の小茄子ちゃんに昔話をせがまれて、自身の弓の修業の話を始めます。
子どもたちは知らないかもしれませんが、昔那須与一というたいへん有名な弓の名手がいたので、ナスつながりの話になっています。
奇想天外な与太郎じいさんの話が終わったあとに、近所に住む茶人千休利さんがたずねてきます。
キュウリというだけあって、顔は長く、まさにキュウリ顔。
しかも、この休利さんは、昔の茶の名人千利休にかけています。
この二人のことを紹介するだけで、この絵本の面白さがわかるような気がします。
ナスが嫌いという子どもに、ナスの美味しさをわかってもらうのに、与太郎じいさんの話はいいかもしれません。
ナスの色であったり、形であったり、色々な物語ができそうな気がします。
野菜は身体にいいし、なによりも生産者さんの気持ちがはいっています。
こういう絵本を読みながら、野菜に親しんでもらいたいと思います。
今年も故郷から水ナスを頂戴しました。
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いろんなもの見つけよう
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投稿日:2015/06/05 |
第15回日本絵本賞。その大賞に選ばれたのが、本書『カワセミ 青い鳥みつけた』です。
著者の嶋田忠さんはベテランの写真家で、この本は絵本というより、写真集という方が適切かもしれません。でも、コバルトブルーに輝くカワセミの写真につけられた嶋田さんの文章がとてもいいんです。子どもたちが川から突き出た石の上ですましているカワセミや川に勢いよくダイブしている写真に夢中になっているそばで、声にだして読んでみてください。
それは単にカワセミの習性をつづったものではなく、嶋田さんがどうしてカワセミに夢中になっていったのか、カワセミの写真を撮るのにどれほど苦労したか、そしてどんな工夫で水中のカワセミの様子を写真におさめることができたのかが、平易な文章でつづられています。
水中カメラが濡れないような専用ケースがあるのですが、嶋田さんは正直に「でも、高くて買えません」と書いています。嘘をつかない文章が子どもたちを夢中にさせます。
この本を読み終わった子どもたちは、カワセミを見たいと思うでしょう。しかし、子どもたちの夢はカワセミだけではないはずです。プロ野球選手、漫画家、宇宙飛行士、写真家、会社員、いっぱいいっぱい。
その夢を実現させるために、あきらめないこと、がんばること、工夫すること、そんなことに気づくのではないでしょうか。
なにしろ、「青い鳥」は幸福のシンボルなのですから。
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みんなの図書館
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投稿日:2015/06/04 |
私が子どもの頃は、子どもの定義があるでしょうが十歳前後だとしたらかれこれ四十年以上前の頃ですが、図書館はとても怖い場所だったような記憶があります。
薄暗くって、本の黴くさい匂いが漂っていて、時々きっとこちらをにらみつける気の強そうな司書さんがいたりして。
ところが、今はすっかり雰囲気が変わりました。明るい採光、きれいな本。笑顔あふれる司書のおねえさん。
なんと幸せところでしょう。一日いても飽きません。
それに、やさしくて気立てのいいライオンがいたら、もっといい。
だって、そこは、みんなの図書館なんですから。
現代の図書館だって、たぶんまだまだ不満はある人はいると思います。
勝手きままに走り回る子どもたち、それに注意もしないお母さんやお父さん。閲覧机を占領する学生たち。こっそり図書館の資料を切り取る人たち。愛想のない司書たち。読みたい本が所蔵されていなかったり、ベストセラーばかりがあったり。
それに、やさしくて気立てのいいライオンもいません。
みんなの図書館なのに、どうしてでしょう。
私は、それでも図書館が好きです。
子どもの頃にように、もう怖くもありません。とぼしい予算のなかで図書館のみなさんがいろんな工夫をしてくれています。
それに、図書館にいると、やさしくて気立てのいいライオンだけでなくて、海から顔をのぞかせるクジラにも、野原を走るオオカミにも、昔のとっても偉い人にも、未来のかわいい少女にも出会うことができます。
だって、そこは図書館なんですから。
この絵本を読んで、そんなことを思いました。
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はたけしごとも食育
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投稿日:2015/05/31 |
「食育は、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるようにするために重要なテーマです」なんて、仰々しい文章が内閣府のHPに書かれています。
簡単にいえば、私たちが日頃食べているそのことを大事にしようということだと思うのですが、食べることだけでなく作られて私たちの食卓にのぼる、そういうことにも関心を示しなさいみたいなことです。
だからなのでしょうか、私が借りている菜園には小さな子どもさんがいる家族がたくさん参加しています。野菜を育てることで、食に関心をもってもらいたいという親心なのだと思います。
そんな家族を見ていると、子どもたちの目が輝いているのがわかります。
人間って、やはり、小さい時から土になじませ、動物や植物を愛するように育てるのは大切なんですね。
ドロシー・マリノが描いた、こぐまのくんちゃんを主人公にしたシリーズの一冊であるこの絵本も、自然に触れることで成長するくんちゃんの様子が描かれています。
お家にいるとおかあさんのじゃまばかりしているくんちゃんはとうとうおかあさんから「おとうさんのはたけしごとでもおてつだいしたら」と、家から追い出されてしまいます。
ところが、はたけしごとを手伝うどころかおとうさんのじゃまばかり。
おとうさんばならした土をひっかきまわしたり、草に水をあげたり、花を抜いてしまったり。そのたびに、おとうさんは「ちがう、ちがう!」っておおあわて。
くんちゃんははたけのはしにすわって、おとなしくおとうさんのすることをじっとみることにしました。
しばらくすると、くんちゃんはちゃんとたねをまいたはたけに水をあげれるようになりました。草も抜けました。
おとうさんから「なかなかうまいじゃないか」とほめられて、くんちゃんの顔はぱっと輝きます。
この絵本が日本で出版されたのは1983年ですから、もう30年以上も前のことです。色づかいも黒と緑だけで派手なところはありませんが、とてもわかりやすい絵本です。
この絵本で育てられた子どもたちがちょうど次の子どもたちの食育などを考える年齢になっているのではないでしょうか。
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夏野菜の王様
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投稿日:2015/05/24 |
これぞ夏野菜の定番といえるのが、トマトです。
トマトは17世紀半ばに日本に伝わりましたが、最初は「唐柿」と呼ばれていたそうです。確かにどことなく柿に似ていなくもありません。
食べ物として定着していくのは昭和になってからといいます。最初は鑑賞用でした。
野菜には一つの品種で色々な仲間がありますが、トマトは原則その大きさによります。大玉トマト、中玉トマト、そしてミニトマトといったように。
私の菜園では今大玉トマトとミニトマトを栽培しています。この時期(5月中旬)にかわいい黄色い花を咲かせます。
そんなトマトの絵本がありました。
市川里美さんの『ハナちゃんのトマト』。タイトルの通り、ハナちゃんという女の子がお父さんにトマトの苗を買ってもらって、それを夏休みの間田舎のおばあちゃんの畑で育てるというお話です。
トマトの葉を虫に食べられたり、台風がやってきたり、ハナちゃんの気苦労は絶えません。
特に台風がやってくる場面、「はたけのようすをみにいかなくちゃ」と、あわてているハナちゃんの気持ちはよくわかります。
自分が育てているということは、しかもハナちゃんのように、栽培初心者にとっては台風なんてとんでもない出来事です。
自分のこと以上にトマトのことが気になります。
そういう心配があって、収穫時のうれしさは倍増するのです。
自分の苗から赤い実をつけたトマトをほおばるハナちゃんの、満足そうな顔といったら。
「おひさまのあじがする!」なんて、喜んでいます。
トマトって、その赤い色という点では得をしています。
もし、明治の時代にもっと普及していたら、夏目漱石の『坊っちゃん』に「トマト」とあだ名される教師が登場してもよさそうだし、クライマックスの生卵投げ事件もトマト投げであれば、もっと面白かったかもしれません。
ハナちゃんはいなかのおばあちゃんに栽培の苦労だけを教えてもらったのではありません。
収穫した野菜を食べることも、ちゃんと教わります。
食して初めて野菜の良さがわかるのではないでしょうか。
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けんこう美人に早く会いたい
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投稿日:2015/05/17 |
家の近くで農園の貸出事業が始まったので、この春から小さな菜園を始めた。
となると、夏の野菜、つまり夏に収穫される野菜の栽培から始めることになる。
畝作り、種まき、苗植え、間引き、防虫ネット掛けと、今までしたことばかりの連続で、楽しんでいる。
春に種を蒔いたラディッシュは一ヶ月で収穫となった。
今は花をつけだしたトマトやなすびの苗を見て、どんな実になるかと、胸ふくらませている。
そんな日々だから、絵本をさがすにしても、つい野菜の絵本はないかと、そんな目になっていて、見つけたのが、この絵本。
ひろかわさえこさんの「やさいむらのなかまたち」。「春・夏・秋・冬」の4冊シリーズになっている。
このシリーズの特長は、なんといってもひろかわさんのイラストがかわいいことだろう。
野菜というのは、それぞれに形状的な特長があるが、その特長をうまくとらえている。
例えば、この「夏」編でいえば、トマト。
「やさいむらのとまとさんはスポーツだいすきな、けんこう美人」と擬人化されている。
バーベル運動をして、顔を真っ赤にさせている「とまとさん」。
うまく特長をとらえている。
加えて、「トマトのルーツ」であったり、「トマトの栄養」であったり保存方法であったりが、ミニ情報として収められている。
こういうかわいいイラストとともに読むと、野菜に親しむのではないだろうか。
実際私が借りている農園でも親子連れの姿をよく見かける。
「食育」ということがしきりにいわれるが、土と苗に接することで、野菜との距離がうんと近くなる。
この「夏」編では、まさに今私が育てている野菜たちがほぼ全員紹介されている。
「けんこう美人」のトマト、「ぴっかぴかのえがお」のピーマン、「やさしくてしんせつ」ななすび、「ねくらではない」オクラ、「おしゃれ」なきゅうり、「ひそかなにんきもの」にんにく、「シンデレラになることをゆめみて」いるかぼちゃ、「おんがくずき」なとうもろこし。
オクラとにんにく、かぼちゃは、私の栽培リストにはないが。
この絵本のような、かわいい実がなるか、ますます期待がましていく。
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今日もコロッケ 明日もコロッケ
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投稿日:2015/05/10 |
子どもの頃だから、昭和30年代だが、「コロッケの唄」というのがあった。
この絵本を読んで、その当時の歌を調べてみると、五月みどりさんが歌ったものが出てきた。作詞作曲は浜口庫ノ助さん。
「こんがりコロッケにゃ 夢がある/晴れの日 雨の日 風の日も/(中略)/今日もコロッケ/明日もコロッケ/これじゃ年がら年中/コロッケ コロッケ」
「今日もコロッケ/明日もコロッケ」という歌詞の部分が記憶にある。
こういう歌が唄われたぐらいだから、日本中でコロッケを毎日食べている人が多かったということだろう。
おやつにコロッケを食べていたように思う。
確か5円ぐらいではなかった。
そんなコロッケだが、あれから半世紀経っても、いまだに愛される食べ物にちがいない。
この『コロッケです。』は2015年に刊行された、ほかほかの作品なのだから。
作者の西村敏雄さんは1964年生まれの絵本作家。
その絵柄はどちらかといえば、ほんのり系。それがコロッケという題材に合っている。
町のコロッケ屋さんの店先から、ある日、「どこかあそびにいきたいな」と一個のコロッケが逃げ出すところから、始まる。
まるで、「およげ! たいやきくん」のようなシチュエーション。
海に飛び込んだ「たいやきくん」と違って、コロッケは子どもたちがキャッチボールをしている公園や動物園の猿やまにまぎれこんだり。
町から離れて村のじゃがいも畑にも行ってしまう。
そして、最後にはロケットに乗って、月面まで。
最後の場面は月の上で舌を出しているコロッケだが、それを見上げている人々の表情がいい。
誰も怒ったりしていない。
ちょっとはびっくりしているが、何故かにこにこしている。
それくらい、この国では愛されている食べ物なんだ。
そんな町の人々を見て、この絵本が妙に懐かしいわけがわかった。
彼らが着ている服が、昭和風なのだ。
この物語は、西村さんが子どもの頃に夢見たままなのかもしれない。
きっと、西村さんも「今日もコロッケ/明日もコロッケ」で育ったのだろう。
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