りっぱなクワガタが土をかきわけ、あらわれて木へ。 「またせたな おつきさん さあさあ みてくれ おれさまを! かっこいいだろ?」
ぴかぴか光る月の夜、クワガタの素敵な姿に誘われて、夜の虫たちも集まってきました。 カミキリムシやカナブン、蛾たちも。 でもいじわる、けちんぼのクワガタは、他の虫たちを追い散らす。 「おい! おまえたち! このつきは おれさまのもの しっしっしっ」
自慢のハサミをふりかざすクワガタですが、ある夜、大きなカブトムシにやっつけられ、ハサミの先が折れてしまいます。 すっかり弱虫になったクワガタ、夜の虫たちの仲間に入れてもらいたくて、泣き虫顔……。
いま注目の作家・竹上妙さんが木版画で描く世界。 虫をとらえた形のかっこよさ、目や体つきの表情のゆたかさ。 青、紫、紺、オレンジ、黄色、緑……。 心をくすぐる、木版画のうつくしさに目を奪われます。 『マンボウひまな日』(絵本館)で絵本作家デビュー後、次々と作品を発表。 生きもののたしかな存在感が、どの作品からも、まっすぐ心地よく伝わってくる作家さんです。
実は、絵本制作のかたわら、学童クラブで子どもたちと過ごすこともある竹上さん。 子ども同士の様子を見ていて、いつもいばりんぼの子が泣いていたときに「きょうは泣き虫」ということばがふっと浮かんだそう。 それから1枚の絵を描き(そのときはカブトムシの絵だったそうですが)、イメージがふくらんで、今作品につながっていったそうです。
いばりんぼも泣き虫も、弱虫も、みんなで遊ぶと楽しい夜になりますね。 最後の数ページは、視点が変わるとともに絵が広がっていく展開があざやか。 虫たちとよい月見をしたような余韻が残る絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
「マンボウひまな日」(絵本館)や「ふくろうのオカリナ」(理論社)で大注目の若手作家たけがみたえさんがお話の創作に初挑戦! クワガタは、月の光をひとりじめしたくて、みんなに意地悪して大威張り。ところがある日、カブトムシに相撲で投げ飛ばされすっかり弱虫に。何日も一人ぼっちで過ごしていましたが、満月の夜みんなが楽しそうに遊んでいるのを見て泣き出してしまい…。
子ども同士でもよくある様子を大人気の虫たちをたくさん登場させて表情豊かに描いています。学童保育で働いている、たけがみさんの子どもたちへのあたたかい眼差しが伝わってくる絵本です。
表紙の立派なクワガタと「きょうは泣き虫」のタイトルに惹かれて、読んでみました。
トントンと読みやすいリズムに乗ってクワガタの意地悪な態度で話が進んでいきます。でも、意地悪は結局自分を一人ぼっちにしてしまう。寂しくて泣くのかなと思ったら、すもうに誘ってくれた優しさに泣くとは。ちょっと裏をかかれました。子供も嬉し泣きという感覚がよくわかる内容ではないでしょうか。
キラキラ光る月夜の晩、虫たちの世界が美しく描かれている絵本でした。 (みわっこさん 50代・せんせい )
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