この絵本の作者湯本香樹実(ゆもとかずみ)さんといえば、1992年に発表された『夏の庭 The Friends』を読んだ人が多いかもしれない。
あるいは、映画化された『岸辺の旅』を思い出す人もいるだろう。
どちらかといえば寡作の書き手だが、湯本さんの作品が好きという読者も多いのではないだろうか。
そんな湯本さんが児童というよりかもう少し上の少年少女向けに書いたのが、この作品。
絵本の判型をしているので、中学生や高校生となるとなかなか手にしにくいかもしれないが、読めば何ほどか心に残るものがあるだろう。
「あなたがおとなになったとき/どんな歌がすきだろう」
「あなたがおとなになったとき/空はおなじ青さだろうか」
このように、「あなたがおとなになったとき」がリフレインされていく。
この言葉のあとにつづく問いかけの、あなたの心に響くものがきっとあるだろう。
もうすっかりおとなの私の場合は、「あなたがおとなになったとき/いちばん手にとりやすいところにあるのは/なんの本だろう」だった。
そんな忘れかけているものを、それは子どもであっても少年であってもおとなであっても同じだろう、この言葉が思い出させてくれるはずだ。
そして、この絵本に登場する少女と少年のように、いつしか大きな塀を乗り越えて新しい世界に旅だしていくのだろう。
おとなになるために。
はたこうしろうさんの絵が湯本さんの文をまるで映画のように仕上げてみせた、そんな絵本になった。