飼育員の腕をかみ切ってしまったワニが、殺されることになった。子ワニのころから大事に育てていたベテラン飼育員の松原さんは、ワニを許してほしいと懇願するが、ダメだった。明日、毒入りの餌を食べさせなければならなくなった松原さんはワニを逃がすことを考えるが…
桂三枝の社会を見る目の温かさと細やかさに感心する。メディアで大々的に報じられることは少ないような問題に関心を寄せ、鋭く状況を分析し、自分の考えを混ぜ込んだ愉快な話として構成されている。この落語絵本シリーズは、おおよそそんな感じで話ができあがっているので、大人が読んでも十分に読み応えがあり、感じるところや考えさせられるところがある。人によって意見が違うとは思うが、動物の殺処分や、ペット問題、動物を装飾品に加工する産業などについて、あれこれと私は考えを巡らしていた。
読後に物語としてのおもしろさと、現代社会や人間の生き方に関する問題提起と、人情味のある解決法の提案を同時に受け取れる絵本というのは大変に珍しい。
いろんな年代の人に読んでもらって、ちょっとずついろんなことを感じて考えてもらいたいと思う。
絵が大胆で、ユーモアがあるためか、なかなか深刻な問題をテーマにしているにしては、妙に面白く感じられて、重すぎない印象になるのも魅力。