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人情えほんだけあって、ほろりとするぜえ
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投稿日:2019/08/18 |
落語を聴いていると時々これは文化だなと感じることがある。
話芸といわれる世界でありながら、目の前に江戸や明治の庶民の暮らしが広がるようである。
それを同じことが飯野和好さんのこの作品にもいえる。
江戸の通りに響く物売り買いの声。
この物語の主人公の灰次郎の商売である灰買いの声、「灰はございー」だけではない。
めだかに金魚売り、塩売りの声がいきかう。
落語でいえばマクラにあたる。
けれど、ここをしっかりしないと江戸の時代にはいっていけない。
さらに灰次郎が小さい坊やに連れていかれる裏長屋。
どぶ板が狭い路地を走り、隣近所はうすい壁。
この雰囲気もしっかり描かないと、世界にはいっていけない。
しかも、この裏長屋は物語の後半には重要な舞台となるのだから。
ところでこの灰次郎という男の商売は家々から灰を買ってそれをふるいにかけて、布を染めたり和紙をつくったりする時に使われたという。
それでなかなかいい商売にもなって、灰次郎は結構いい屋敷で暮らしている。
もっともそれも灰次郎がまじめに商いをしているからで、これを妬む男が出て来る。
しかも、それがもとの弟子というのだから。
ところがこの悪人、やっぱりどこか抜けていて、悪だくみも裏長屋の薄い壁でまる聞こえ。
灰次郎は寸前のところで難を逃れることができ、と、まるで落語の世界のよう。
まさに飯野和好さんの話芸ならぬ絵芸の名人芸、「人情えほん」とつくだけあって、ほろりとさせられる。
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もぐらを漢字で書くと土竜
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投稿日:2019/08/11 |
今年(2019年)の青少年読書感想文全国コンクールの「課題図書」で「小学校低学年の部」の一冊になっている科学絵本です。
絵本の対象になっているのはもぐら。
都会ではなかなか土のあるところを見かけることが少なくなってきましたから、もぐらといわれても見たことがない(もっともほとんど土の中で生きている動物ですから実物を見た人は少ないでしょうが)子供たちは多いと思います。
そもそももぐらが住んでいるのは、森や林、畑に田んぼ、公園、学校の中庭などの地面の下ですから、その姿を見ることはほとんどないですが、こういうところで時たま「もぐらづか」を見かけることがあります。
「もぐらづか」というのはもぐらが土の中で掘ったものを地面に押し出した時にできるぽっこりで、上から踏むと中が空洞になっていますから沈みこみます。
その「もぐらづか」の周辺にはもぐらが土の中を走り回った痕跡を見ることもあります。
見ることができない動物ですから、その生態を考える時、想像する力が必要となります。
この絵本に描かれているもぐらを自分の頭の中で動かしてみること、もしかしたらもぐらになってみること(もちろん想像ですよ)も必要かもしれません。
この絵本では、もぐらがどんなふうに餌となるミミズをとったり、地中のすみかの様子や生きるためのさまざまな苦労などが描かれているので、もぐらになる(もちろん想像です)のは簡単です。
この科学絵本を読んで子供たちがどんな感想文を書くのか読んでみたくなります。
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忘れてはいけないこと、忘れられないこと
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投稿日:2019/08/06 |
作者の朽木祥さんは1957年広島に生まれた、被爆二世の女性だ。
デビュー作『かはたれ』以降、児童文学で数々の受賞歴を持つ児童文学者で、広島の原爆を扱ったこの作品も児童文学に括られるでしょうが、成人が読んでも十分に鑑賞できるし、むしろどの世代であっても多くの感動が得られることと思う。
主人公は12歳になる中学生の希未。
終戦から25年とあるから、物語は昭和45年の広島だろう、おそらく主人公の年齢はほぼ作者と同じと思われる。
希未のまわりにはまだたくさんの戦争の犠牲者、原爆の被害者がいた。
美術部の顧問吉岡先生もその一人。あの日の原爆で許嫁であった女性を亡くしている。
身近な人にそんな悲しい出来事があったことさえ、あれから25年も経つと忘れていることに希未たちは愕然となって、身近な人たちの悲惨な体験を学ぼうと決める。
あの朝、ぐずる息子を叱り、追いやるように学校にせかした母の、悲しい後悔。
大きな骨の周りに寄り添う六つの小さな骨は、あの日原爆の犠牲にあった女先生とその先生を慕った学生たちではないか。
原爆だけではない。希未の母にも秘密があった。それはかつての恋人が遠い戦場で亡くなったこと。
愛する人を戦争で、原爆でなくなった、その事実を12歳の少女は知ることになる。
そして、そんな大切な人を忘れないということも。
この作品には「小山ひとみ」という戦争を詠んだ無名の歌人の歌が何度も出て来る。
朽木が書くように、世界にはたくさんの「小山ひとみ」がいるだろう。
それは何十年経っても忘れてはいけない。
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回転ずしといえば
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投稿日:2019/07/28 |
この絵本の作者tupera tuperaさんは亀山達矢さんと中川敦子さんのユニットで、私は「絵本界の木皿泉」と小さく呼んでいたりします。
tupera tuperaさんの絵本の魅力はなんといってもその発想力だと思います。
その名を一躍高めた『パンダ銭湯』にしろ『わくせいキャベジ動物図鑑』にしろ、どこからそういう発想が出てくるのか不思議なくらいです。
こういう絵本を子供たちが読んだら、頭も心も自由に放たれるのではないでしょうか。
そうして自由になった頭と心は、また新しい創造を生み出す、そんな気がします。
この『まわるよる』という絵本も随分奇抜です。
夢のお話というのはたくさんあるでしょうが、この作品は考えてみればとっても怖い悪夢のお話です。
だって、自分が回転ずしのネタになって回るのですから。
ほうら、タイトルの意味がわかったでしょ。
ある夜、くいしんぼうのふとしくんは「早く寝なさい」と叱られながらベッドにもぐりこみます。
この時、ふとしくんの掛け布団の柄をよく覚えておいて下さいね。
だって、これってマグロの赤身柄なんですもの。
そう、ふとしくんは寿司ネタになって回転ずしの回るレーンで回っているではないですか。
しかも、お客さんはいつもネタになっているはずの魚たち。
マグロネタになったふとしくんはどうなってしまうのでしょうか。
やっぱりこのお話はかなり怖い。
怖いけれど、どこかおかしい。
そういう発想がtupera tuperaさんの魅力だと思います。
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夏みたいな女の子
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投稿日:2019/07/21 |
しばしば「あなたは海派? 山派?」みたいな質問を耳にする。
これってアウトドア派の人にはいいけれど、インドア派の人には、どちらもな、みたいなことになる。
では、夏派? 冬派? だったら、どうだろう。
暑いのが好きか、寒い方がいいか、みたいなことだろうが、何となく夏は行動的で冬はじっとしているみたいな感じがする。
それって、やはり太陽の強さか何かが影響しているのだろうか。
朝、元気に「なつさがし、いって きまーす」と家を飛び出した女の子の絵本を見ていると、この子の元気がうらやましくなる。
夏のすがすがしさも気持ちよくなる。
この絵本の作者杉田比呂美さんは絵本作家ではあるが、私には本の装幀画などを手がけるイラストレーターの印象の方が強い。
しかもその絵は特に何かを強く主張していないのだけれど、あ、この絵は杉田さんの作品だとわかってしまう、そういう独創性が感じられて、私は好きだ。
特に少女の絵がいい。
まだ大人になりきれていない、棒のような身体、それでいて何かを感じる力は人一倍あったりする、そんな少女。
杉田さんの絵の魅力といっていい。
そんな女の子と「なつさがし」をする、そんな絵本なのだ、これは。
例えば、「ペタンタン ペタンタン」と歌っているようなぞうりの音。
例えば、「むうっと はっぱの こい におい」。
例えば、「おひさまが バリバリに かわかした せんたくもの」。
誰もがそうだ、そうだ、夏っぽいと思えることが、絵本いっぱいにひろがる。
やっぱり、夏って、太陽の強さが元気をくれるのだろうか。
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一茶の俳句を英語にしたら
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投稿日:2019/07/14 |
子供たちに俳句の魅力面白さを伝えるのも大層難しいだろうが、相手が外国の人ともなればその数倍は困難さがある。
この絵本は副題に「一茶の人生と俳句」とあるように江戸時代の俳人小林一茶の代表的な俳句33句を紹介しつつ、その生涯を描いたものだが、作者の名前を見ればわかるように、これはアメリカで出版された絵本である。
海外でも俳句を詠む人がいて、それを鑑賞する人も大勢いるとは聞いたことがあるが、こうして子供向けの絵本となってその魅力が描かれていることに驚いてしまう。
タイトルの『蛙となれよ冷し瓜』は一茶の「人来たら蛙となれよ冷し瓜」という句からとっている。
その英語訳が「Cool melons – turn to frogs! If people should come near.」である。
この絵本にはこの英語にも訳があって「やい、冷し瓜やい もしだれか来たら 蛙に化けろよ」となっている。
訳は児童文学に造詣の深い、脇明子さん。
日本の俳句と海外のそれはやはり印象がかなり違う。
言語が違うからそれは仕方がないが、俳句の洗練さはやはり見事というしかない。
この絵本は小林一茶の俳句を鑑賞するだけでなく、厳しい子供時代、そして晩年の幼き子や妻さえなくす辛い時代を簡潔に描いている。
文を書いたマシュー・ゴラブさんはアメリカで日本語を専攻し、日本に留学、その後数年日本で過ごした経験があるそうだ。
日本人でさえ、一茶の代表的な俳句は知っていても、その生涯ともなれば知らない人が多いだろう。
それをこういう絵本の形で、外国の人から教えられるのであるから、妙な感じがしないでもない。
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こんな贅沢、あっていいのだろうか
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投稿日:2019/07/07 |
第161回直木賞の候補作が先日発表されました。
候補になった6作品全部が女性作家によるもので、これは芥川賞も含めて史上初ということで大きな話題となりました。
熱き女の戦いを制するのは誰か、発表は7月17日。
といっても、女性作家の活躍は近年目を見張るものがあって、候補がすべて女性作家になってもあまり違和感がありません。
そんな中、手にしたこの絵本の、なんとも贅沢な顔合わせに、ちょっと震えました。
原作が『花の名前』などの短編連作で第83回直木賞を受賞した向田邦子さん、それをもとに文を書いたのが『対岸の彼女』で第132回直木賞を受賞した角田光代さん、そして絵を描いたのが『サラバ!』で第152回直木賞を受賞した西加奈子さん。
こんなごちそう、あまりない。
この絵本の原作は向田邦子さんの短いエッセイで、『眠る盃』に所収されています。
中学生の高校の教科書にも採用されていて、読んだ子どもたちもいるかと思います。
戦時中の家族の姿、特に向田さんが愛してやまなかった父親の姿が見事に描かれたエッセイです。
戦争で疎開をやむなくされた幼い妹、その妹に父は自宅の住所を書いたたくさんのはがきを持たせます。
そのはがきに元気な日はまるをつけておくりなさい、と父を言って幼い妹を疎開先に送り出します。
最初は大きなまるを書いて届いたはがきは、やがて小さなまるになり、ついにはばつになってしまいます。
疎開先でつらいめにあった妹が家に帰ってくることになった日の、父の姿を描いて(西さんの絵は父の足や下駄の様子でそんな父の愛情をうまく表現しています)感動の、絵本に仕上がっています。
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この図鑑、私の宝物にします。
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投稿日:2019/07/06 |
子供の時分、それは昭和30年代の終わり頃ですが、我が家にも何冊か図鑑があったように思います。
自分一人のものではなく、兄弟共有のものだったせいでしょうか、その図鑑が何の図鑑かまったく記憶にありません。
ただ箱にはいって表紙が頑丈に出来ていた、そんな記憶だけがあります。
あれから半世紀以上も経って、一冊の図鑑を手にしました。
それがこの図鑑。箱入りではありませんが、表紙がしっかりした造りになっています。
図鑑とはどのような本のことをいうのか、調べると、こうあります。
「絵や写真を中心にしてその事物の実際の形などを示しながら解説した書物」と出てきます。
この図鑑では、「日本で流通している野菜・果物を中心に、海藻、キノコ、山菜など、約700種類」が絵や写真で解説されています。
私たちは普段こんなにたくさんの野菜や果物を目にしたり食べたりすることはありませんが、野菜や果物の世界がこんなに広く深いものだと知ることも、大切なことです。
700種類の野菜や果物を、どこを食べているかでグループ分けされています。
例えば、トマトやナス、オクラは「果実を食べる」のグループ、ダイコンやニンジンは「根を食べる」グループ、といった風に。
ジャガイモが「茎を食べる」グループにはいっているのには、子供たちも驚くかもしれません。
トマトの例でいえば、果実の全体や断面図、あるいは栽培時期や生産量ランキング(ちなみにトマトの一位は熊本県)、トマトが赤い理由なんていう記事もあります。
トマトの種類もたくさん載っていて、数えると22種類もありました。
この図鑑、私の宝物にします。
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とげとげでもあってもおいしいですよ
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投稿日:2019/06/30 |
今、畑では夏野菜の収穫が始まりました。
夏野菜といえば、キュウリ、ナス、ピーマンがなんといっても代表格。
いえいえ、もっと人気のあるのが、この絵本の主人公にもなっているトマトかもしれません。
トマトといっても大玉トマド、中玉トマト、それにミニトマトと品種は豊富で、栽培としては大きくなるほど難しいといわれています。
その点、ミニトマトは栽培もそれほど難しくありませんし、たくさん採れることから、家庭菜園でも喜ばれる夏野菜です。
この絵本の主人公の「トマトひめ」ですが、他の仲間たちの実の生り方からみると、大玉トマトのように思えます。
それに「おおきなトマトのかぶ」とありますから、大玉トマト説がさらに濃厚になります。
子ども向けの絵本といっても、そういう表現はおろそかにできません。
それがよく出ているのが、キュウリの描き方。
この絵本ではちょっと恐い顔で描かれているキュウリは、形状もしょくれた感じで「ひねくれたキュウリ」と書かれています。
子どもたちが日ごろスーパーや八百屋さんで見かけるキュウリはまっすぐな、とってもいい子のようなものだと思いますが、家庭菜園などできるキュウリはひねくれることといったら。
恐い顔をしているかどうかはわかりませんが、「とげとげだらけ」というのもその通り。
なので、この絵本は正しい。
ただひとつ、かんむりを残して落ちてしまったトマトは枝には戻りません。
では、どうするか。
やっぱり、いただきます。
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あなたならどんな草花を描きますか
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投稿日:2019/06/23 |
なんともステキなタイトルです。
てっきり、色々な本で出来上がった庭を想像しました。
絵本はさしずめ可憐な花、百科事典はたくさんの知恵がつまった古木、雑誌の類はハーブ園、時代小説は苔かもしれません。
そんな庭ってどんなのだろう。
でも、この絵本のタイトルをわかりやすく書くと、「ほんの(どこかに載っている)にわ(の絵)」なんです。
そんな庭を見つけに、ページを開きましょう。
主人公は「にわし」。
ひらがなではわかりにくいですが、漢字で書くと「庭師」。
庭の手入れをしたり新しい庭をつくるのが仕事。
なくなったお父さんも庭師で、お父さんが残した本の中に「ほんのにわ」を見つけます。
そこには見たこともない草や花の写真が載っています。
主人公はそんな庭が本当にあるのだろうかと一生懸命探すのですが、見つかりません。
ところが、ある日、主人公はそんな本の世界にはいってしまいます。
そして、気がつくのです。
これは自分が子どもの頃に地面に描いた、想像の草花だってことに。
夢物語みたいなお話って言わないでください。
最後のページに描かれた、「ほんのにわ」に夢ではない証拠がちゃんと残っています。
見つけられるかな。
みやざきひろかずさんが描いた世界のなんと素敵なことでしょう。
淡いけれどすっきりとした色合い。彩りという漢字をあてたくなる、そんな絵本です。
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